つめたい水の世界から萌えるような光の世界にぽつと生れ出た若芽は只不思議な瞳をみはつて光を眺めてゐます。そして強い息づかひをして更に空気の世界に生きやうと努めてゐます。
ーー1914年、尾崎翠作。18歳。

今年の蓮の観察日誌は、尾崎翠さんの文章からスタートです。
同年、「女子文壇」7月号に掲載された散文です。春に鳥取高等女学校を卒業し、7月より岩美町の大岩尋常小学校に代用教員として勤務した年にあたります。
京都に旅立った同級生を想い、記したもののようです。女学校の近く、鳥取城のお濠に芽吹いた睡蓮を眼にしたのでしょう。観察眼、そして豊かな感性と知性を感じます。
「私の胸にも、更に更に新しい血潮がみちて参りました。そして新緑のさゝやきに共鳴つてゐます」と文はむすばれています。