ハードディスクに撮りためていた番組を、年末年始に見たという方も少なくないでしょう。私もその1人です。NHK Eテレの100分de名著 中井久夫スペシャルを年末に一気見しました。
中井さんは統合失調症にとりくんだ臨床医です。翻訳家、文筆家としても活躍され、昨年8月に亡くなられました。何冊か文庫を読んだことはありますが、この度、番組を視聴し、著書に記された、人に寄り添う優しさと深い知性に胸を打たれました。番組のテキストも購入し、年明けに読みました。

番組の4回目で取り上げられた『戦争と平和 ある観察』。次のような一文があるそうです。
「人間が端的に求めるものは、『平和』よりも『安全保障感』である。人間は老病死を恐れ、孤立を恐れ、治安を求め、社会保障を求め、社会の内外よりの干渉と攻撃とを恐れる。人間はしばしば脅威に過敏である。安全への脅威はその気になって捜せば必ず見つかる。…『安全保障感』希求は平和維持の方を選ぶと思われるであろうか。そうとは限らない。まさに『安全の脅威』こそ戦争準備を強力に訴えるスローガンである」
番組で解説を担当された精神科医の斎藤環さんは、この「安全保障感」という中井さんの指摘について、「今の時代だからこそ重い意味を持つ」とテキストに記されています。