半年間、欠かさず見続けてきた「カムカムエヴリバディ」も今週が最終週です。
今月の掲示板は、主要な登場人物の一人、斬られ役・伴虚無蔵の4月6日放送分のセリフです。時代劇そのままの侍の出立ちともの言い。若き日のひなたの進路に大きな影響を与えた人物でもあります。
「分かち与えるほどに輝きが増すものと心得よ」

(に、が入らずぬけています。ご容赦)
演じるのは、松重豊さん。実にハマり役でした。
彼が所属する条映映画村の道場には、「万死して一生を得る」の墨書が掲げられています。虚無蔵は長く斬られ役の大部屋俳優でしたが、2003年、ハリウッド映画に主役の一人としてこわれ、その後、役者人生も大きく転換したものと思われます。
ドラマ最終週。本編では2003年が(最終回は2025年?)、そして、月曜から前枠では未来(2022年)を短時間描くという斬新な手法をとっています。
ときは2022年。主人公の大月ひなたは2年ぶりにアメリカから帰国。映画のキャスティング・ディレクターとして活躍しているようです。英語力をかわれ、NHKから2024年のラジオ英会話番組への出演をオファーされます。できるのだろうかとためらうひなたに、虚無蔵は、このように語りかけます。
「おひな。そなたが鍛錬し、培い、身につけたものはそなたのもの。一生の宝となるもの。されど、その宝は、分かち与えるほどに輝きが増すものと心得よ。御免」
頑なに生きてきた虚無蔵自身が、ひなたに向けるとともに、自らにも向けたセリフだと思い、感銘を受けました。ひなたとの出会いを通じ、虚無蔵は、自らが磨き上げてきたものを、自分だけで完結させず、誰かのために使うことで、より輝きを増すのだと強く実感したことでしょう。
分かち合いとは、私以外の誰かと手を繋ぐ、大切に思うこと。そのことを通じて、私もまた磨かれ、輝く。人間らしい営みです。分かち合いは仏教の大切な精神でもあります。
指導者の残忍さ、ロシア兵たちの犯した罪深さに、日々、ニュースで触れ、戦争の狂気、人間の恐ろしさを思い知らされます。
そのような日常が一方で展開される中で、私は毎日、このドラマを楽しみにしていました。
脚本家の藤本有紀さんは、このセリフを、それを語るにふさわしい伴虚無蔵を通じて、ひなたに、そして視聴者に送ってくれたのだと思います。